また、ふたたびの・・・

昨夜の私は、有るまじき失態を演じてしまった。
あのような状況下において、自分の仕事を為し得なかった事はプロフェッショナルとしての誇りに
深い滲として残ってしまった。
クライアントから区切られた期間はあと２日。
それまでにあの課題を確実に登りきることが、過去の過ちを払拭するための唯一の方法だ。

今日は半年に一度の同居している妻と娘に会う日だ。
普段は妻が使っている、古いイギリス製のローバーと同じ数のシリンダーを備えた車に乗り込み、 国道を北に向かう。
昨夜以来久しぶりに見る娘は少しの変わりも無いようだ。
娘の希望で大型ショッピングモールへ。
アイスクリームが食べたいという妻と娘を残し、私は２階にあるモンベルという野外用品を扱うショップで時間を潰す。
そのとき、背後から聞き覚えのある声で「御客さん」との声が・・・・
キーワードを知る男、山旅エージェントのISKWが私に接触をはかってきた。
雨の日曜、偶然にしてはできすぎだ。情報を交換し合い何事も無かったかのごとく分かれた。
すぐに、妻たちと合流し久しぶりのショッピングに付き合った。
思春期を迎えた娘は父親との会話に、はにかんでいるようだ。
無理もあるまい、最後に会話してから１時間という長い年月が過ぎている。
そして、家族水入らずで過ごした時間もそろそろ終幕を迎える時が来た。
私はいつもの如く『うお熊』の門をくぐる。
昨夜の借りを返さなければならないのだ。
狙撃用のシューズに履き替え、入念に指先をチョークアップする。
わずかな指先の滑りがこの依頼を完遂することの障害となることを、スナイパーは本能的に気付いている。
そして私はバーミンガム・スモール・アームズのセイフティーロックを外す。
・・・・・・最後のホールドの手前、昨夜切れてしまった足を残すために右足をフック気味に右に出す。
左手で終了点を取る。スタティックに届き足も残っている。
ゴールを逃さないよう静かに右手を添え完登・・・・・・「ミッション・コンプリート」
今夜も月の明かりは私の枕までは届かないだろう。